PERSONAL NOTE

『筋肉が全て』は何を言っているのか|筋肉と健康の関係を研究から読む

2026-10-14

米国の医師ガブリエル・ライオン氏の『筋肉が全て』は、本の要約動画でも大きく取り上げられ、いま多くの人が手に取っている一冊です。副題には「健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法」とあり、かなり強い言葉が並びます。この記事では、この本が何を主張しているのかを整理したうえで、そのうちどこまでが研究で確かめられているのかを分けて紹介します。本の内容をそのまま信じるのでも、言い過ぎだと切り捨てるのでもなく、筋トレを始める判断材料として読める形にまとめます。

『筋肉が全て』の主張を3つにまとめると

本書の考え方は、大きく次の3つに整理できます(要点は編集部によるまとめです。詳しくは本書をご覧ください)。

1. 筋肉を「健康を支える器官」として見る。筋肉を見た目や運動能力のためのものではなく、血糖や代謝、体の動きを支える健康の土台として捉え直す、というのが本書の出発点です。

2. 「脂肪が多すぎる」より先に「筋肉が少なすぎる」を問題にする。体重や脂肪を減らすことばかりに目を向けるのではなく、筋肉を保ち、増やすことを優先しようという立場をとっています。

3. たんぱく質を重視し、筋トレと組み合わせる。たんぱく質の量と質、そして1日の食事のなかでの配分を重視し、それを筋力トレーニングとセットで考えることをすすめています。

研究で確かめられていること

本書の主張のうち、比較的しっかりした研究の裏付けがあるのは次のような点です。

筋力が高い人ほど、死亡リスクが低い傾向がある。約14万人を対象に17か国で行われた国際的な研究(PURE研究、医学誌Lancetに2015年掲載)では、握力が低いほど、全死亡や心血管疾患による死亡のリスクが高いという関連が報告されています。ただし、これは「関連がある」という結果で、「筋トレをすれば寿命が延びる」と証明したものではない点には注意が必要です。

筋肉は血糖の大きな受け皿になっている。食事のあとに血液中のブドウ糖を取り込む場所として、骨格筋が大きな役割を担っていることは、生理学の研究で古くから知られています。筋肉を健康の器官として見るという本書の出発点は、この知見とつながっています。

公的な指針も筋トレをすすめている。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人・高齢者ともに、筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。歩くなどの有酸素的な活動に加えて、筋肉に負荷をかける運動が、公的にも位置づけられているということです。

読むときに気をつけたいこと

たんぱく質の量は、公的な基準より多めの考え方です。本書がすすめるたんぱく質の量は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」が示す推奨量より多めの考え方に立っています。どれくらいが適量かは、専門家のあいだでも議論が続いている分野です。腎臓の病気がある方や治療中の方は、食事を大きく変える前に医師に相談してください。

「不老」「人生のすべてが変わる」は、本の言葉です。筋肉を保つことが健康にとって大切だという点は多くの研究と一致しますが、筋トレで老化が止まる、誰でも人生が変わる、といった結果を約束できるものではありません。効果には個人差があり、持病や体の状態によって合う運動も変わります。

筋肉から出る物質の話は、研究が進んでいる途中です。運動した筋肉からさまざまな物質が分泌され、全身に影響するという研究(マイオカインと呼ばれる分野)は注目されていますが、日常の健康にどこまで効くのかは、まだ解明の途中です。

始めるなら、まず何をするか

本書を読んで「筋肉を増やしたい」と思ったら、公的な指針と同じく週2〜3回、大きな筋肉を使う種目から始めるのが現実的です。器具がなくても、たとえば次のような種目があります。

・太ももとお尻を使うスクワット
・お尻と太ももの裏を使うヒップリフト
・胸と二の腕を使う腕立て伏せ

PERSONAL NOTEの種目図鑑では、それぞれの種目で使う筋肉とフォームのポイントを、3Dの動画で確認できます。

一方で、筋トレはフォームが崩れたまま続けると、効かせたい筋肉に効かず、腰や膝を痛める原因にもなります。自己流で続ける自信がない方は、最初の数か月だけパーソナルトレーナーにフォームを見てもらうのも一つの方法です。その場合は、料金の総額や解約の条件を入会前に確認しておきましょう。確認のしかたは無料カウンセリングで聞くべき質問の記事にまとめています。

まとめ

『筋肉が全て』は、筋肉を健康の土台として見直そうという本です。筋力と死亡リスクの関連や、筋肉が血糖の受け皿になっていることなど、主張の芯の部分には研究の裏付けがあります。一方で、たんぱく質の量や「不老」といった表現には、議論の余地や言い過ぎの部分もあります。本の勢いに乗りつつ、週2〜3回の筋トレを無理なく続けることから始めてみてください。

よくある質問

Q. 筋トレは何歳から始めても意味がありますか。

厚生労働省の身体活動・運動ガイドでは、高齢者にも筋力トレーニングが推奨されています。年齢に関わらず始められますが、持病がある方や久しぶりに運動する方は、医師に相談してから無理のない強さで始めてください。

Q. 本のとおりに、たんぱく質を増やしたほうがいいですか。

適量は体格や年齢、運動量、健康状態によって変わり、専門家のあいだでも意見が分かれています。まずは今の食事で、毎食たんぱく質源(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品など)が入っているかを見直すところから始めるのが無難です。腎臓の病気がある方は、必ず医師に相談してください。

参考:ガブリエル・ライオン『筋肉が全て』/Leong DP, et al. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet. 2015/厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」/厚生労働省「日本人の食事摂取基準」

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